<三章/転寝草> これは夢。だけど…… 熱い。 体中が…焼けるように熱い。 (だれか、たすけて) 声にならない悲鳴が頭の中で渦巻いている。 全身を駆け巡る血が生きたいと叫んでいる。 死にたくないと、叫ぶ。 無我夢中で。 だが、伸ばした手は虚しく宙を掴む。 助けなど、こない。 阿鼻叫喚の煉獄の炎の中、はたして生きている者などいるのだろうか。 炎、炎、炎―――――― どちらを向いても炎の壁しか見当たらない。 絶望を予感させる。 (しにたくない) 体はすでに動かない。 次第に考えることも難しくなっていって、生への渇望しか頭にない。 迫りくる炎。 目の前が、白くなった。 (しぬのは、いや――――――!!) 「―――っ!」 がばりと起き上がる。 呼吸は荒く、動悸も激しい。 しばらく呼吸を整えるのに時間を要した。 夜着は汗でぐっしょりと濡れている。 (……まただ) 茜莉はぼんやりと考える。 以前は一年に一回見るか見ないかだったのに、このところ頻繁に見るようになった。 炎の夢を。 いつも、景色が白くなったところで目が覚める。 過去にあった出来事らしい。教会に来るまでで唯一持っている記憶だ。 いつの頃からか見るようになった夢。 (何かが、起こるのかな) 過去の記憶だという以外に、この夢はもう一つ意味をもっていた。 それは―――事象の変事。 何かが起こる前兆として、茜莉はよくこの夢を見ていた。 そして今も帝都に近づくにつれて夢を見ることが多くなっている。 これが巫女の力かは分からない。 起こる事柄を明確に予知できるわけでもない。茜莉は見るだけだ。 ただ……、その夢は酷く苦しいものであった。 Novel/ Next |
|